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『明日の田園都市』を読んでみた

この本は19世紀に書かれた書物で、著者はエベネザー・ハワードというイギリスの発明家であり社会学者。
都市から一線を引いた田園都市にこそ、人が暮らしていく上で豊かなエッセンスが凝縮されていると語られており、現代に通じる都市計画の構想が描かれている。

その具体的な手法がこの本では語られており、実際にレッチワースとウェリンという田園都市において、この構想が具現化された。

また最近では、都市計画法の中に田園住居地域という地域が2019年から加わった事によって、今後の日本の都市計画に一端の影響を与えるのではないかと思われる。

一級建築士試験にも、この本についての問題が過去何度も出題されている実績もあり、建築や都市計画を志す人にとっては必読書とも言える本かもしれない。

抑えておくべき対策は、レッチワースとウェリンという街について。特にレッチワースについては単体で狙われる可能性もある。

レッチワースはどういう街かと言うと、ロンドン近郊の田園都市で、ロンドンへのアクセスを意識し、職住一体を目指し、都市の長所と田舎の長所である自然景観を同時に活かした街。鉄道駅や公園を中心とした放射状の街路を形成した美しい街で、東京都の田園調布や、大阪の千里ニュータウンがこのモデルに大きな影響を受けている。

都市計画の基本は人々が安全かつ快適に暮らせる事を前提に、そこに暮らす人々とのコミュニティ形成や、資産価値の向上が求められる。

とにかく序文が長い

この本は合計で270ページ程あるが、そのうち80ページ程まで序文が続く。エベネザー・ハワード以外にも関係者がかぶせるように序文を語っており、そのなかにはルイス・マンフォードという『都市の文化』という名著を書いた人物の序文も含まれている。

序文の内容は田園都市とはどういうものかというくだりから、田園都市に関する用語、エベネザー・ハワードとはどういう人物か等々、読み進める上で、前提としてある程度の知識を備えてから読めと言わんばかりの、説明を添えた構成から始まっている。

都市計画というよりもビジネス書に近い

単に田舎暮らしをしましょうという本ではなく、そこに集まる人々によって、どのようにその価値を見出し、それを最大化するかという事を主眼に置いている。

環境的観点から言えば、都会で住むよりも広々とした空気の綺麗な環境で住む事の方が、生き物として健康に資する事は間違いようのない事実ではあるが、産業を生み出さなければ、決して豊かに暮らせない。

そして産業を生み出すだけでなく、キャッシュフローの循環、雇用を維持するという人材の循環という点においても、それらを生き物のように扱い、育んでこそその価値は向上する的な事が書いてあった。

経営学的観点からPL(損益計算書)、BS(貸借対照表)、CS(キャッシュフロー計算書)という会計の知識もあれば、この本はもっと面白く感じられる事だと思う。

人々が暮らしていく為の営みや理念という重要性、経営の究極、行き着く先は共産主義とでも言いたげな一文も所々で散見された。

資本主義の限界が囁かれる最近を考えると、100年以上先を見据えて書かれた本であるようにも思えた。

現代社会に当てはめてみると

また現在において、田園都市に暮らす最大の理由としては、都会に暮らす理由がそれ程無くなって来た事が挙げられる。通信ネットワークテクノロジーの発達により、リモートワークの実現が可能になった。

まさに今の日本では、コロナウィルスの拡大により、このリモートワークへの切り替え対応が、企業の時代の潮流に乗るだけの力があるか否かが試されている。

地方分権という行政のスローガンにおいても、この図書から学ぶ事は大いにあるはず。

本という本は歴史のふるいに掛からなければ、本物を語る事はできないとはよく言われるが、この100年以上の時を経て書かれたこの書物には、それを体現する何かがあるようにも思われた。

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